ダウン症の赤ちゃんの抱っこ 。その子の個性に合う抱っこ紐の選び方と活用
ディディモスのブログをご覧の皆さん、はじめまして。中学3年生と小学1年生の兄弟を育てています、嶋木彩と申します。
皆さんは、ダウン症をご存知ですか?ダウン症にどんなイメージがありますか? 長男と8歳差で誕生した次男がダウン症をもっているとわかった時から、手探りの子育てが始まりました。その中で、私たち親子を支えてくれた抱っこについてお話したいと思います。
ダウン症とは
ダウン症、正式名は「ダウン症候群」(最初の報告者であるイギリス人のジョン・ラングドン・ダウン医師の名前により命名)で、染色体の突然変異によって起こり、通常、21番目の染色体が1本多くなっていることから「21トリソミー」とも呼ばれます。この染色体の突然変異は誰にでも起こり得ますが、ダウン症のある子は胎内環境がよくないと流産しやすくなるので、生まれてきた赤ちゃんは淘汰という高いハードルを乗り越える強い生命力をもった子なのです。
ダウン症の特性として、筋肉の緊張度が低く、多くの場合、知的な発達に遅れがあります。発達の道筋は通常の場合とほぼ同じですが、全体的にゆっくり発達します。 心疾患などを伴うことも多いのですが、医療や療育、教育が進み、最近ではほとんどの人が普通に学校生活や社会生活を送っています。〈公益財団法人日本ダウン症協会HPより〉
予期せぬ早産、不安と手探りの日々
600人~800人にひとりと言われるダウン症、実際は個人差がとても大きく、合併症も発達も性格も本当にひとりひとり違います。これからお話しすることはあくまでも我が家の次男の例であり、ダウン症の特性としてのスタンダードモデルではないということをご承知おきください。
予定日より1ヶ月早い出産でした。保育器で眠る次男を見て、ダウン症をもっている新生児の特徴がいくつも当てはまり、どうやって育てたら良いんだろうと慌てました。合併症、発達、授乳、離乳食、抱っこ、教育、就労、検索する手が止まらず、調べれば調べるほど将来への不安も大きくなりました。
飲まない、泣かない、起きないの三拍子で、空腹でも泣くことがなくただ眉を寄せるだけの次男に授乳するためのタイマーをかけ、それでもほんの少し飲んでは疲れて寝てしまう弱々しい新生児に体力気力を削られました。体重もろくに増えず、身体も芯がない感じにグニャグニャしていて抱っこもしづらく、何をどうしたら良いかわからず途方に暮れました。
産院からの退院と同時に大きな病院へ転院し、毎日冷凍母乳を届けがてら授乳の練習を数時間。もちろん長男の世話もありますし、何より出産したばかりの身体にはとてもきつい毎日でしたが、次男を抱っこしながら周りを見れば、病気や障がいを乗り越えようと頑張っている赤ちゃんたち、大人たちがたくさんいました。
一枚布の抱っこ紐との出会い
1ヶ月ほどの入院の間に染色体の検査を受けてダウン症と確定し、退院して自宅での生活が始まると、一番の困りごとは抱っこになりました。通院のため頻繁に外出する必要がありましたが、長男に使っていた抱っこ紐では、筋肉や関節の緊張が低く身体が柔らかすぎるために抱っこ紐の中で身体がくちゃっとつぶれて沈み込んでしまい、子どもの身体をまっすぐキープすることができません。「ダウン症 抱っこ」と検索してもあまり情報が見つけられず、さまざまなタイプの抱っこ紐を試しましたが私の腰痛もどんどんひどくなり、次男の整体の先生からラップタイプの抱っこ紐を勧められました。初めての一枚布、正しい使用法を習うためベビーウェアリングコンシェルジュさんに講習を依頼したのが、布を使った抱っことの出会いでした。
講習ではストレッチラップ、へこおび、ベビーラップを紹介され、こんな長い布は自分には使いこなせないと思いましたが、初めてへこおびで子どもを抱っこして、子どもの姿勢を布が面でしっかり支えてくれること、ぴったり密着しているのに苦しくない抱き心地、抱っこしたまま動いても子どもと一体感があって大人の身体にかかる負担がとても軽いこと、何より自分と一緒に布に巻かれている子どもがとても気持ちよさそうで可愛くて、気がつくと子どもの頭、背中、お尻、足とたくさんなでてしまっていました。身体をたくさんなでることはマッサージのように刺激を与え、発達を促してくれるようです。子どものお尻よりも両ひざが高い位置にあるM字姿勢も、股関節の好ましい発達を促すだけでなく「しゃがむ」動きの練習となり、身体の使い方の習得にも良い影響があったと思っています。
布を使って抱っこをするようになると、抱っこの時間が「身体がつらい運搬作業」から「親子のしあわせなふれあいの時間」へと変わりました。他人の視線を気にして家に閉じこもりたくなる気持ちも、「きれいに巻けたから外に出てみよう」「素敵な布を入手したから外に出よう」という気持ちへと変わっていき、背中をそっと押されるように行動範囲が広がりました。あんなにつらかった腰痛も気にならなくなっていきました。
低緊張の身体をしっかり支えるベビーラップ
親子ともすっかり布抱っこが気に入り、使う布もへこおびからベビーラップへと移行して、さまざまな巻き方があることを知りました。首すわりや腰すわりなど発達度合いだけではなく、たとえば背中が反り返りやすい、足をピンとつっぱりやすい、次男のように低緊張などそれぞれの特徴に応じてそれをカバーできるような巻き方があったり、サポートのアイデアがあったりと、ベビーラップを愛用する人たちのコミュニティにたくさん助けられました。
親子それぞれに合う合わない、好みがあるとは思いますが、次男と私の場合は身体がしっかりしないうちは身体の両側をしっかり支えてくれる巻き方「フロントラップクロスキャリー」が合うと感じていました。長めの布を使い、背中ではなく肩で結び、余った長いテールをねじって反対側の肩へわたして、首ががくんと倒れてしまうことのないよう支えにすることが多かったです。
もう少し大きくなってからの巻き方は「ダブルクロスキャリー」が快適でした。抱き入れる際に自分で足を上げて協力してきたり、眠たくなると両腕を布の中にしまう定位置に収まったりと、次男も慣れたものでした。この巻き方は布を大人に巻き付けたまま子どもを抱き入れたり下ろしたりすることができて、子どもを抱っこしていないときにショールのように羽織っていることもできるので、通院など長時間の抱っことたびたび下ろすことの両方が必要な場面でもとても便利でした。子どものお尻の下で結んだ余りのテールで足を覆って、夏はきつい日差しや冷房からの冷えを防ぎ、冬も防寒に役立ちました。
成長と共にスリングでの姿勢も安定
リングスリングは左右のサポートが次男には頼りなかったのか身体が斜めになりやすく、なかなか使いこなせずにいましたが、成長と共に身体がしっかりしてきて姿勢をまっすぐキープできるようになってから使いやすくなりました。長く歩けるようになった今も短時間の抱っこに大活躍です。次男は小さな頃から布抱っこに慣れたおかげか、布の中でどうすれば体勢がしっくり来るか、安定して安心できるかを自分自身でわかっているようです。
対面抱きから得られる安心感が高い
抱っこしながら目を合わせておしゃべりしたりふれあったりと楽しんでいた影響か、顔が見えないとつまらないのか、おんぶはあまり好みませんでした。おんぶができると家事をするときに便利とよく聞きますが、次男は少し離れていても家事ができていたのでおんぶのニーズが低かったのかもしれません。身体がしっかりしてきてからときどき家で試してみましたが、次男は背中で眠ると脱力して布の中で沈み込んでしまうときもあり、姿勢を保つために身体を支える布が三重になるような巻き方をしたり、首をしっかりサポートできるような工夫をしていました。問題なくおんぶできている他のダウン症のお子さんもお見かけするのでこれも個人差や好みのひとつなのかなと思っていますが、私たち親子にはおんぶより抱っこの方がお互いに安心できて満足度が高かったようです。
子どものニーズや季節に合わせて選べる楽しさ
ベビーラップは色や柄が豊富でワクワクしますが、布の素材もさまざまです。小さな頃や薄着のときは肌へのあたりがとても柔らかいシルク、体調が悪いときは気軽に洗えるオーガニックコットン、暑いときはヘンプやリネン、重たくなれば幅広など、選ぶ楽しみも多様で、布を見ると手足をバタバタさせて喜んでいた次男もやがて自分でその日に使う布を選んだり、自分も布を使ってぬいぐるみを抱っこしたりと成長に合わせて楽しむようになりました。
さらに、すべりが良く引き締めやすい、伸びが良く身体に沿ってぴったりくる、摩擦が強くゆるみにくいなど、織りによっても巻き心地が異なることもわかってきて、その上厚さ(重さ)によっても巻きやすさやサポート力が異なり、ベビーラップの奥深さに驚きました。巻き方、色柄、素材、織り、重さ、こんなに好みを選べる抱っこひもに出会えて良かったな、これまでは抱っこ紐に子どもと自分を合わせようとしていたけれど、ベビーラップは子どもと自分に合う抱っこを追求できるのだなと思いました。
布に包まれる安心感
暑くて脱水症状や低血糖になった、寒くて風邪を引いたなど頻繁に入院していた次男にとっては、ベビーラップは家族と離れて過ごす病室でのお守りにもなりました。感染症の流行で面会は日に数十分のみという時期もありましたが、短い時間でも布に巻かれて静かに抱っこされることで充電しているようでした。
具合が悪いときだけでなく、例えば園の行事など普段と違う環境でひどく緊張して不安になってしまったときも、布で抱っこすることで気持ちを落ち着かせることができました。次男が泣いたときはまず素手で抱っこし、それでも落ち着かなければ布に入るか確認し、うなずいたときは本人にとってかなりつらい状態なのだと判断の目安にもなりました。今ではそんな場面はずいぶん少なくなりましたが、ときどき布で抱っこしてあげるととても嬉しそうにしています。短時間の布抱っこでもすぐに眠ってしまうこともあり、変わらず安心する場所なんだなとこちらもホッとします。安心できるものがわかっているのは心強いです。
抱っこは心のセラピー
小学校で、気持ちが不安定になってしまったお友だちが次男をそっと抱きしめていることがあるそうです。次男もおとなしく抱かれていて、やがて落ち着くとそのお子さんは自分の教室に戻るそうで、セラピーのようだとか。抱っこすることで人のやわらかさあたたかさを感じ、穏やかな気持ちになれるのは、赤ちゃんだけでなく成長した子どもも同じなのかもしれません。私自身も、次男を抱っこしているときは子どもと一緒に布にくるまれてぴったりと抱かれているような気持ちでした。そんな「抱っこで得られる安心」をたくさん味わえる喜びを、より多くの方に体験していただけたらと願っています。
防災用に常にカバンに入れている命の綱
次男は小学1年生、体重は20キロを超えていますが、とてもつらいとき、怖いと感じるときは今でも抱っこをせがみます。私は常に布をバッグに入れていますが、予期しない災害や事故などで自力で歩けなくなるような事態になったとしても、これがあれば次男を安心安全に連れて避難することができると確信しています。このことは次男だけでなく私自身の大きな安心につながっています。
ディディモスのアドバイザーになったきっかけ
抱っこ、おんぶのために織られているディディモスのベビーラップは体重制限がありません。重さを面で支えることで、大人の身体への負担も軽減できます。これは次男のように抱っこやおんぶの必要な期間が長い場合にはとてもありがたく大切なことだと強く思います。
療育施設にも布抱っこで通っていたため利用者さんや先生方から質問されることが多く、しっかりした知識を持って答えたいと思い、一番使いやすいと感じていたディディモスのアドバイザーの認定を受けました。アドバイザーとしての活動を通してさらに出会いがあり、世界が広がりました。ドイツのディディモス本社で毎年作成されるカレンダーに私たち親子の抱っこの写真が採用されたときは、次男がダウン症とわかり不安でいっぱいだった時間が救われたような気持ちになりました。ディディモスは研修や講座など学びの機会も多く、日本や外国での特別なサポートを必要としているお子さんのベビーウェアリングについて知る機会に恵まれたことはとても勉強になりました。産まれてまもないあの頃に見かけたたくさんの赤ちゃんたち、大人たちがあたたかなふれあいの時間を持てていますようにと祈っています。
布を使った抱っこやおんぶはとても快適ですが、安全性だけは注意が必要です。ただ巻き方を覚えればそれで良いというわけではなく、使う布の強度や適切な長さ、引き締め加減やシート(赤ちゃんをしっかり支える部分)の作り方など、大切なことがたくさんあります。子どもにとっても大人にとっても安全で快適な抱っこ、おんぶを習得するためにぜひアドバイザーの講習を受けることをお勧めします。布の扱いに慣れるため基本的な巻き方から丁寧に教わることができて、さらに親子それぞれの特徴やお悩みへのアドバイスが得られたり、オンライン講習に対応できるアドバイザーもいます。特別なサポートが必要なお子さんの場合はさらに主治医への確認も必要かと思います。多方面から子どもと大人を支えていくことが大事だと思っています。
お子さんの抱っこ、おんぶに迷ったときには選択肢の一つとして思い出していただけたら嬉しいです。抱っこやおんぶという本来の用途以外にも、肌掛けにも、敷物にも、チェアベルトがわりにも、防寒具にも、遊び道具にも使える頼もしい布です。
この記事を読んでくださっている中には、ダウン症をもつお子さんを迎えられた方、私と同じように暗闇の中必死で検索してここにたどりついた方がいらっしゃるかもしれません。ご出産、おめでとうございます。「生きたい」と願う力を持った強いお子さんですね。親子とも、よく頑張りましたね。
どうか、周りを頼ってください。周りの力を借りることをためらわないでください。力になってくれる味方はきっとたくさんいます。大変なことつらいことはもちろんありますが、どんな子育てもそれぞれに喜びも苦労もあるのではないかと思います。
次男の子育ては薄紙を一枚ずつそっと重ねていくような、ちょっとした風でそれが吹き飛んでまたやり直すような、そんな繰り返しにも感じられる成長ぶりですが、いつのまにか高く重ねられていた、できることがこんなに増えていた、そんな実感があります。次男が産まれてから、家族や親戚、毎月何度も通う多くの医療機関、ダウン症児の赤ちゃん体操から始まり今もお世話になっているさまざまな療育、整体、習い事など、たくさんの支えに恵まれてきました。その中で布を使った抱っこ、ベビーウェアリングは大きな柱のひとつであり、長い時間ずっと一緒に頑張ってきた相棒です。いつも快適な抱っこで親子とも気持ちが満たされていたことは次男の成長に好ましい影響が大きかったと思っています。
21番目の染色体が3本あることから、3月21日は世界ダウン症の日とされています。この機会にダウン症について知っていただけたらと願い、この記事を書く機会をいただけたことに感謝しています。ありがとうございました。
嶋木 彩
大学卒業後、金融機関に就職。結婚を機に幼児教室の指導員となる。中高教員免許、保育士、おもちゃコンサルタント、おもちゃインストラクター、絵画指導インストラクター、あそび発達サポーター、キットパスアートインストラクターなど、子どもとあそびにつながる資格認定を受ける。ディディモスのベビーラップアドバイザーとして抱っこやおんぶのアドバイスも行う。東京都在住。
二児の母。次男にダウン症があり、発達ゆっくりな子育ても実践中。
嶋木彩の講習を希望される場合
お子さんが安心できる環境で行いたいと考え、抱っことおんぶの講習はご自宅への出張のみとさせていただいています。遠方の場合は、別のアドバイザーによる講習にオンラインなどでオブザーバーとして参加することも可能です。